- 2021年5月7日
- 受精卵の評価『PNって何?』
培養士の林です。
緊急事態宣言下でのゴールデンウイークはいかがでしたか。
気軽にお出かけもできずにヤキモキした方も多かったのではないでしょうか。
私はもともとインドア派なのでそんなに苦痛には感じませんでしたが
生活リズムが崩れて自分がダメ人間になっていくのは分かったので
最終日あたりには「仕事に行った方がまともな生活ができるのでは・・・?」
という気持ちになっていました(笑)
今日は受精卵の評価についてお話します。
当院に限らずARTを経験された方は、培養結果の報告を受けた際に
0PN、1PN、2PN、3PNといった文字を見たことがあるのではないでしょうか。
当院では培養終了後に報告書をまとめ、患者様に受精卵の写真をお渡ししており、
受精確認のDay1の写真にその文字が書かれていると思います。
まず、PNとは”P”ro”N”uclearの略で日本語では『前核』といいます。
核とは遺伝子の情報が含まれている部分のことで、受精卵に現れる核はお父さん由来とお母さん由来があります。
これらが融合する前の核、ということで『前核』と呼ばれています。
正常受精では前核は2個現れ、2個の核はその後1個に融合し、やがて見えなくなります(消失)。
2PNは前核が2個、0PNは前核がないという意味になります。
下の写真を見ると丸い核の数と数字が同じというのがなんとなくわかるかと思います。
(クリックで拡大できます)
それぞれ一体何が良くて何が悪いのでしょうか。
【0PN】核がない
原因:受精しなかった、前核はあったが早く消失した、まだ前核が出ていない、など
【1PN】前核が1個
原因:単為発生、片方の前核だけ先に見えている、前核がちょうど融合している、など
【2PN】前核が2個
正常受精
【3PN】前核が3個
原因:精子が多く入ってしまった(体外受精の場合)、卵子自体の染色体の問題
0PNと1PNは未受精の可能性もありますが、受精したけど観察タイミングと受精卵のリズムが
合っていないだけ、という理由も考えられる状態のため、受精後の成長に問題がなければ
移植に使用することができます。ただしここでいう受精は異常受精(3PN)も含まれるので
移植の際は患者様と相談した上での移植となります。
2PNは正常受精のため問題なく移植に用いることができます。
3PNは原因がどれでも染色体に問題がある可能性があるため基本的には移植には適しません。
3PNよりたくさん前核が見えることも稀にありますが原因は3PNと同じです。
(※よく驚かれる方がいるのですが1個の卵子に精子が2個入っても双子にはなりません、異常受精です)
受精確認時の評価が少しでもわかりましたでしょうか。
もし正常受精と評価されなくても、ちゃんと子供になれる受精卵はあります。
また、次回正常受精卵の数を増やすためにどうすればいいのか常に院長と作戦会議をしています。
この患者さんは精子が多く卵子に入っていきやすいからちょっと少なめに調整しよう、
体外受精であまり受精しなかったから今度は顕微授精にしよう、などなど
その人その人に最適な方法というのを日々模索しています。
普段採卵の後に渡された写真にもこれだけ情報が実は詰まっています。
もらったことのある方はぜひ参考にしてもう一度見てみてはいかがでしょうか。