IDAクリニック産婦人科

 
2020年6月4日
リプロダクティブ・ライツ

  昨年、11月の初旬に、長崎で日本人類遺伝学会第64回大会が開催され、参加してきました。院長が一般演題で当院の羊水検査で経験した真性モザイクの2症例について発表されました。モザイク症例は大変珍しい症例であり、同じような結果に直面した患者さんや医療従事者の方への有用な情報提供となりました。ご協力いただいた患者さんと先生方に感謝です!
学会発表:長崎 長崎
  新型出生前検査(NIPT)の実施拡大が提案されているなか、当院も連携施設として認定されることで、広く必要な妊婦さんにNIPTを提供できることを期待して、学会等の動向を注視していますが、残念ながら遅々として進んでいないのが現状です。
今回、出生前診断のセッションにおいて、ある演者が母体保護法上のNIPTの位置づけとして「リプロダクティブ・ライツ」を挙げられていました。私自身、あまり認識がなかったので、調べてみました。
  リプロダクション(reproduction)は生殖と訳されることから、「リプロダクティブ・ライツ(reproductive rights)」は生殖に関わる様々な権利だと訳されます。1994年のカイロ国際世界人口開発会議において「女性の人権」として明確に打ち出されました。(1996年に日本では優生保護法が母体保護法に改定されています。)
  生殖は女性だけでなく男性も含めたすべての人間がもつ権利のはずですが、とりわけ女性の権利とされたのは、妊娠・出産が女性特有のものであり、女性の意図と切り離せられないもので、生殖において女性の権利が軽視されていたからだと思われます。「リプロダクティブ・ライツ」は次の4つの概念から成り立っています。
1.女性自らが妊孕性(にんようせい;妊娠する能力)を調節できること

2.すべての女性において安全な妊娠と出産が享受できること
3.すべての新生児が健全な小児期を享受できること
4.性感染症の恐れなしに性的関係が持てること
  その1つに、「生む/生まない」を決定する女性の中絶の権利があります。「望まない妊娠」が生じないためには、効果的な避妊が不可欠で、生殖に関する十分な教育と啓発が必要になります。これは、院長が日々の診療で取り組まれている1つだと思います。ただ、「望まない妊娠」が若年者の性と生殖に関する無知からくるものだけではないようです。例えば、パートナーとの関係性などから、中絶の決定をさも「自己決定」するように「選ばされている」場合もあり、本当に「女性の人権」と言えるのか疑問が残ります。また、日本では「望まない妊娠」を女性のみの責任に転嫁される傾向にあり、晩婚化など様々な社会的問題が背景にあるようにも感じます。
  母親は出生・育児において特別な役割を担うため、出生前診断も「リプロダクティブ・ライツ」と言えますが、最終判断は女性ですが、自分で検査を受ける(受けない)と決めたから、責任がすべて女性ひとりに押しつけられるものではありません。家族や社会などのサポートが重要になります。「リプロダクティブ・ライツ」には、生殖技術の利用もそうですが、誰もが安心して妊娠・出産・育児できる環境や社会をつくることが重要ではないかと思われます。
  まだ、コロナ禍も油断ならない状況ですが、日本の出生前診断もステップアップできる社会になること願っています。

希望
清水

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